宇宙の中で銀河が単独で存在することは滅多にありません。銀河は群れ集まるのを好みます。多くの銀河が群れ集まった集団を
銀河団,
と呼びます。その一例を示します。
ESO PR Photo16a/99.
われわれに最も近い銀河団はおとめ座の方向に見られます。この銀河団の距離は約5千万年光年です。
図1 (チリのラシーヤにあるヨーロッパ南天天文台の広視野カメラで撮影)は、この銀河団の中心近くの狭い天域の画像で、いくつかの明るい銀河が見えています。
図2 には電離水素が放つ光で撮影した少し広い視野(図1の視野と一部重複している)が示されています。これはハワイのマウナケア山頂にある、口径8.2mのすばる望遠鏡によって撮影されたものです。この画像には、図1で明るく見えている三つの銀河(M86,M84,NGC4388)が見えています。明るい銀河の広がった周縁部に埋もれている水素輝線を出す天体を、最大限暗いものまで検出するために、明るい銀河の滑らかな周縁部は画像処理によって差し引かれています。そのために、銀河の見え方が図1と非常に違うのです。
銀河団は、「暗黒物質」と「光を出す物質」の双方の強い重力作用によって誕生したと考えられています。おとめ座銀河団は比較的若い銀河団と見なされています。それは、銀河の分布やX線の輝度分布の観測から、巨大な銀河M87、
M86、M49の三つの銀河の周りに銀河の小集団が見られるからです。これらの小集団はこれから合体して、おとめ座銀河団は、より密度の高い滑らかな空間分布をした銀河団になります。
おとめ座銀河団は葉巻のような形をしていて、約1000万光年の長さがあり、その長軸をほぼ視線方向に向けています。つまりわれわれは、銀河団を端から見ているのです。
銀河団の大部分の質量は暗黒物質が占めています。光を出す物質(すなわち「見える」物質)のうちで最大の割合を占めるのは、銀河団全体を満たす高温のガスです。「銀河に属さない星」を観測しようとする最近の試みから、個々の銀河に加えて、おとめ座銀河団には、銀河と銀河の間の銀河間空間に、いわゆる「広がった星の種族」があることが明らかになりました。
そのような種族の星に関する最初の手がかりは1951年にまで遡ります。カリフォルニアのパロマー山にある5m望遠鏡を用いて研究を行っていたスイス人の天文学者フリッツ ツビッキイ
(1898-1974)は、おとめ座銀河団とは別のかみのけ座銀河団において、銀河と銀河の間の空間に淡い広がった光を検出したと主張しました。この銀河間空間に広がる光は、地上で観測する夜空の明るさ(大部分は地球上層大気中の原子の発光による)の100分の1以下の明るさでしかなく、その測定は現在の技術でも困難なものです。今日では、この銀河間空間光は、そこにある星々から出ていることがわかっています。
ごく最近になって、この観測しにくい銀河間空間光を検出するために、天文学者は、これまでとは違う新しい方法を使い始めました。それは、進化の最終段階にある太陽程度の質量の星を探すものです。このような星は、外層を周囲の空間に噴き出して失い、高温の中心核が露出して、やがて「白色矮星」として見えるようになります。
そのような天体が
「惑星状星雲」です。銀河系内でわれわれの近くにあるこれらの天体、例えば「あれい星雲」
(
ESO
PR Photo38a/98 )、は小さな望遠鏡では太陽系の外惑星に似て見えるところからこの名前が付けられました。
噴出した外層のガスは、中心にある非常に高温の白色矮星によって照らされ熱せられ惑星状星雲として見えます。この星雲は、酸素の輝線(緑色;
波長495.9nmと500.7 nm)と水素の輝線(赤色; 波長656 nmのH-アルファ線)を強く出します。惑星状星雲では、波長500.7nmの酸素の緑色の輝線強度が赤のH-アルファ線の強度の3-5倍となるのがふつうであり、このことから輝線を出す他の種類の星雲と区別することができます。
天文学者の国際研究チーム
[2] は、銀河間空間にある惑星状星雲を見つけるための挑戦を行っています。このために、彼らは銀河と銀河の間の空間を、緑色の酸素輝線の波長に合わせて特別に設計した狭帯域の光学フィルターを用いて観測しています。
研究の第一目的は、近傍のおとめ座銀河団中の広がった星の種族の全体的な特性を研究することです。すなわち、銀河間空間にはどのくらいの量の星があるのか、また銀河団中でどのように分布しているのか、またその起源は何か?を明らかにすることです。
銀河間空間で見つかった星はその多くが年齢の古い星です。そのような星が存在することに対するもっとも確からしい説明は次のようなものです。それらの星は、もともとは個々の銀河の中で作られたのだが、銀河団が形成される過程の初期段階に他の銀河と近接遭遇し、そこで重力作用によって銀河からはぎ取られた。これらの「はぎ取られた星々」が後に銀河間空間へと飛散していって、今日みられる星の種族となったと考えられています。
日本、ヨーロッパ、及びオーストラリアの天文学者は
8-m
すばる望遠鏡 (ハワイマウナケア観測所)に
広視野カメラSuprime-Camをつけて、おとめ座銀河団の最も銀河の密集している部分
図2
で、銀河間空間にある惑星状星雲の探査を行いました。銀河系の中にある星や背景にある遠方の銀河は何千個もありますが、それらと明確に区別して、暗い惑星状星雲を検出するにはこのような大口径の望遠鏡が必要だったのです。
特に、酸素と水素の輝線それぞれを透過する二つの狭帯域フィルターで観測することによって、惑星状星雲を、両バンドで共に強い輝線が観測されるはずがない(赤方偏移の大きい)背景の銀河から識別することができます。弱いHアルファ輝線を観測するにはとても時間がかかります。
惑星状星雲から発せられる酸素輝線とHアルファ輝線の強度比は約3-5と予想されており、この領域の中に、銀河間空間にある惑星状星雲の候補が40個ほど見つかりました。
図5 にその例が示されています。しかしながら予想だにされなかったのですが、
輝線強度比が約1である少数の点状の小さな輝線天体が存在したのです。この強度比は、われわれの銀河系、つまり天の川銀河でよく見られる、若い大質量星の周りにある電離水素ガスの雲で観測される値に近いのです。それらのガス雲は
電離水素領域と呼ばれています。
しかしながら、このような電離水素領域が銀河間の空間にあるのはほとんど前例のないことです。したがって、分光観測でスペクトルをとって確認することが是非とも必要でした。
これらの異常な天体が実際に若い星の光で電離されていることを確認する唯一の方法は、広い波長範囲にわたるスペクトルを詳細にしらべることです。それらの天体のうちの一つに対して、2002年4月に、ヨーロッパ南天天文台パラナル観測所(チリ)にある口径8.2mの
VLT
YEPUN望遠鏡 に
FORS2という分光装置
をつけて、そのような確認観測が行われました。
これは、この非常に強力な望遠鏡でもってしても数時間という長い露出時間を必要とする極めて野心的な観測でした。その天体の明るさ(波長500.7nmの酸素の[OIII]輝線の強度)は何と、約660万km先にある60ワットの電球の明るさに相当する極めて暗いものでした。この距離は月までの距離の約17倍もあります。
得られたスペクトル(
図5 )には、水素、酸素、硫黄の出す特徴的な輝線に加えて、若い高温の星から来る
青い連続光が見られ、この天体が間違いなく
電離水素領域であることを示していました。これは、
NGC
4388のまわりの銀河間空間にあるガスの一部が、NGC 4388の中心核からの放射ではなく、大質量星からの放射によ
って電離していることを、初めて確かに示した結果です。
星形成を記述する簡単な理論モデルの予測と観測されたスペクトルを比較した結果、この電離水素領域は、たった一つか二つの若い高温度星(O型のスペクトルの星)の出す紫外線によって電離していることがわかりました。観測結果を最もよく説明する理論モデルによると、この電離水素領域にある星の総質量は太陽の質量の約400倍で、それらは約300万年前に生まれたものです。
このプレスリリースは、最近Astrophysical Journal誌に掲載された研究論文
("Isolated Star Formation: A Compact HII Region in the Virgo
Cluster" by
Ortwin Gerhard ほか; 580巻, L121頁,
astro-ph/0211341)に基づいています。この研究プロジェクトの初期成果は、Suprime-Camの開発チームメンバーとの共同研究として出版されています
(
Okamura 他, 2002, Publ. Astron. Soc. Japan, 54, 883-889,
astro-ph/0211352)及びまもなくAstronomical
Journal誌に掲載されるもう一つの論文
Arnaboldi他 (
astro-ph/0211351
).
: 研究チームのメンバーは Ortwin Gerhard (Astronomisches
Institut, Universität Basel,Switzerland), Magda
Arnaboldi (Osservatorio di Capodimonte,Napoli, and Osservatorio
di Pino Torinese, Italy), Kenneth C. Freeman (Mount
Stromlo Observatory, ACT, Australia),Sadanori Okamura(岡村定矩)
(Dept. of Astronomy, University of Tokyo, Japan; 東京大学大学院理学系研究科・天文学専攻)
とSuprime-Cam開発チームメンバーです。
Ortwin Gerhard
Astronomisches Institut
Universität Basel
Switzerland
Phone: +41-61-2055-419
email:
gerhard@astro.unibas.ch
Magda Arnaboldi
INAF
Osservatorio Astronomico di Pino Torinese
Italy
Phone: +39-011-8101902
email:
arnaboldi@to.astro.it